『アメリカン・スナイパー』
- 作者: クリス・カイル,スコット・マキューエン,ジム・デフェリス,田口俊樹・他
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 文庫
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前出の“共感”に関連して、言い回しは失念してしまったが「世界には正義と悪しかない」という物言いはなんともキリスト教的だと感じた。著者が自らを評する通り”どこにでもいる普通の人間”だとしたら、この本はある意味アメリカ人の思想(思考回路?)そのものなのかもしれない。そういう話題になるたび違和感を禁じ得なかった、という感覚の中身はここでわざわざ語るまでもないだろう。
他方、自由に関する記述は先進国に住む我々にも刺さるものがあり、ある面では先に読んだ『ブラック・ホーク・ダウン』の特に下巻感想の引用部分に通じるものがある。全然違うって? 本書内ではあまり触れられていないがイラクは多民族国家だ。結局今でも事あるごとに宗派や民族で対立している。どの宗派も民族も権力を握って(自分たちにとって都合のいい解釈の)自由な国を作ろうとしている。暴力的ではないにしろ、すなわちそれは特定の宗派あるいは民族の勝利を意味する。サダム・フセインが国家元首についていた時がまさにそうだった。
閑話休題。本書では「彼らは自由をわかっていない、自由には責任が伴う」と書いている。これは上記の権力が実現する自由とはまた別物だが、ひとまず彼ら(イラク国民)は自由があれば国は豊かに、自分たちは裕福になれると思っている(無論そうは考えない人たちもいるが)。この辺りは後進国の街頭インタビューを思い浮かべてもらうとわかりやすいだろう。大抵はそんな便利な自由があるわけないだろうと思うものばかりだ。自由に見える国の国民はその自由を支えるために相応の対価を差し出している。ただそのバランスがうまく保たれているがゆえにそうは見えないだけだ。さて、身の回りを見てみると……自由の意味を履き違えている輩が昨今は多い気がするのだが。
映画を見てから原作を読んでも、あるいはその逆でも新しい発見があるだろう。軍事関係の知識を得るにもなかなかの良書なのは間違いない。読了して胸に残るのは、著者の魂に平穏あれという事だ。あるいは残された家族たちの心痛が、おこがましくも少しでもやわらぎますように、とも。