『ブラックホーク・ダウン 下』
ブラックホーク・ダウン〈下〉―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: マークボウデン,Mark Bowden,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2002/03/01
- メディア: 文庫
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映画が大ヒットしてしまったせいで錯誤してしまうけれど本書も間接的な、しかし緻密な調査に立脚する戦記である事には変わりない。特にエピローグの精緻かつ明晰な分析と丁寧な回想には心動かされるものがある。
「それまでは、悲惨な国が悲惨な理由は、ギャングのような邪悪な指導者が善良で慎みのある無辜の民を虐げているからだと考えられてきた。ソマリアがその概念を変えた。国民すべてが憎みあい、戦いに没頭している国があるとする。街で年配の婦人を呼びとめて、平和を望みますかとたずねる。すると、彼女は、ええ、もちろん、あたしは毎日そう祈ってますよと答える。なべて期待どおりの答だろう。そのあと、では、平和な世の中にするために、あなたの部族がほかの部族と協力することに賛成かとたずねると、彼女はこう答えるだろう。『あんな人殺しや泥棒と? 死んだほうがましよ』そういう国――最近の例はボスニアだ――の人々は、平和を望んでいない。彼らは勝利を望んでいる。彼らは権力が欲しい。老若男女を問わずそうなのだ。ソマリアは、そういう地域の人々がいまのような状態にあるのは、彼らに大きな責任があることを教えてくれた。憎悪と殺し合いがつづくのは、彼らがそう望むからだ。あるいは、彼らが、それをやめようと思うほどには、平和を望んでいないからだ」
P276から引用、ある国務省高官の言葉。彼のこの考えは、しかし当時の政府の外交政策に反するものだったという。では現在はどうだろう。アフガニスタン、イラク、シリア……枚挙にいとまがない。私はここを読んで伊藤計劃『The Indifference Engine』の表題作「The Indifference Engine」を想起した。著者の意図、あるいは著書の主題からは少し離れてしまうけれど、人間の正体を、その果てなき欲望の発露をこれでもかと見せつけられた一冊だった。