『フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life』
フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/06/01
- メディア: 単行本
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以下、ネタバレあり。
この巻の主人公はクサナギの部下であり、のちのカンナミ・ユーヒチであるクリタ・ジンロウ。とくれば本の最後でクリタは死んでしまうのか……と思いきやそれはまったくの見当違いで、かつ『ダウン・ツ・ヘヴン』までの謎はほとんど解ける事なく、むしろ増やしながら終わってしまう。なんだろ、読後がよろしくない。よろしくないぶん、最終巻の『クレイドゥ・ザ・スカイ』で伏線を回収しつつもストーリーを終わらせてくれるんだろうな、と期待する。まあ、それは読んでのお楽しみだけれども。
クリタ・ジンロウが初めて物語の舞台に上がったのは確か『ナ・バ・テア』でだったと思うのだが、『ダウン・ツ・ヘヴン』で登場がなかった間にかなりクサナギへの気持ちを募らせていたらしく、その片鱗が随所に見られる。でもいかにして恋に落ちたのかはよくわからなかった。なんか最初から仕組まれていたような印象さえ受ける。本の後半(中盤?)で2人は離れてしまうのだけど、それでもクサナギを思い続けるクリタの愛情の発端には是非言及すべきだったのではないかと。
この巻の最大の魅力はと問われれば、それはクサナギとクリタの恋――という答えもあるのだけど、他にもう1つ、面白いエピソードがある。新キャラ、サガラ・アオイの存在だ。彼女は「キルドレ」を研究していてその一端としてクサナギを研究していた。その結果明らかになった事実はキルドレの存在意義を根底から揺るがす内容で、これには心底驚かされた。まあ、これに関しては“後付け”の感もしないでもないが、個人的見解としては「だから『スカイ・クロラ』で彼女(クサナギ)は死を選んだのではないか」とも思える。なぜか。クリタ・ジンロウを「もう終わらせてあげたい」*1と思って撃ったクサナギなら“自分に終わりがある”と知った時、その終わりを手に入れたいと思うだろうからだ。そうして彼女は未来、その終わりを手に入れる。
戦闘機に乗って空を飛んで、敵を撃ち落とす――それが全てだった『ダウン・ツ・ヘヴン』までのストーリーはこの巻で急変する。多くの謎を孕んで、キルドレ達の未来を巻き込んで。そしてクサナギとクリタ、2人の人生を狂わせて。キルドレの謎の一端を垣間見たい人にはオススメ。
*1:もっとも、これはミツヤ・ミドリの想像だが。